漢方家 小野満 幹彦

「恵みに気づき、学び知る」

株式会社オリエントメディカル代表取締役 小野満 幹彦

皆さんは漢方、養生と聞いて何を連想されますか?
多くの方は、「漢方薬」や「古くさい」なんてことをイメージされるのではないでしょうか。
もしくは、中国の医学というお答えもあることでしょう。

 私は、昭和大学の薬学部を卒業し、薬剤師になってから武田薬品工業に入社し、新薬の開発、営業に携わって来ました。その当時の私の漢方に対する考えも、古いくさい、信憑性が薄いなど、さほど気に留めることもなく暮らしていました。

 ある日のこと、大学の研究室で中国から来た学生と日本の医療について議論をする機会がありました。私は日本の医学のすばらしさ、将来性を熱く語り、その学生は中国医学のすばらしさを熱く語りました。そんな中、その学生が「そんなに医学が進歩している日本で病人が減るばかりか増えているのはどうしてか?」という質問を受け、自分の心にも同じ思いがあることに「気づき」声を失ってしまいました。

 そこから私の考えが変わり、一週間後には会社に辞表を出し、原宿の漢方薬局で働き始めました。当時は漢方を勉強するにしても今のように読む本もなく、学ぶことは非常に苦労しましたが、知れば知るほど、日本の風土と気候に合うように、先人たちが経験した知恵の集大成が漢方であることに気づかされる日々の連続でした。

 その後、私は東京の小金井市で漢方薬局を開き、その中で、来店される皆様のお話をとにかく、聴くことに努めました。そのお話を聴く中で、私の中にある一つの思いが膨らんでいきます。それは「できるだけ、薬を出さない」で治療をするという思いです。薬局を経営する上で矛盾した考えですが、その人の治癒や予防を本当に考えるならば、薬よりもまず「食事」「運動」「睡眠」「呼吸」などの生活習慣を正すことが先決で、それが、本当の養生になります。その元気になる知恵として養生をお伝えしてから37年が過ぎようとしている現在、ふと、社会を見渡せば、昔では考えられない病気が出てきて、病人、半病人が増え続けている現実に直面します。それは「養生なくして治癒はなし」の証明であり、それを改善すべく、養生を現代社会に合わせ、こどもにもわかりやすく簡単にというテーマを持って、まとめたものが漢方養生学です。

 そして、今、薬局にお見えになる若い方のお話を聴いていると、私たちの世代が幼き頃、おじいちゃんやおばあちゃんから言われてきたこと、家訓として受け継がれているものが伝わっていないという不安を感じざるを得ません。そこで、この多様化して、混迷した時代だからこそ、先人たちの残してくれた知恵や経験、自然の恵みを若い世代が気づき、学んで知ることの大切さを正しく広く普及してくことが使命だと考えています。

 これからの日本においてさらに、予防教育、健康教育の重要性が益々高まることでしょう。その時に漢方養生学が皆様のお役にたてるよう、これからも自然や多くの人の「恵みに気づき、学び知る」ことを実践していきます。